投資・税金・年金・家計を、だまされずに確かめるブログ

年金・老後公開 2026-09-30 ・ 更新 2026-09-30

老後2,000万円の根拠は?前提を最新の家計調査で計算し直した

このページには広告(アフィリエイトリンク)を含むことがあります。

老後2,000万円の前提

「老後には2,000万円いる」。2019年から、何度も聞いた数字です。元の金融庁の報告書を開くと、出どころは2017年の家計調査でした。65歳以上の夫と60歳以上の妻の無職世帯で、毎月の赤字が平均約5.5万円。それが30年続けば約2,000万円、というかけ算です。同じ計算を2025年の家計調査でやり直すと、赤字は月42,434円、30年で約1,528万円になりました。どちらが正しいという話ではありません。前提を1つ変えるだけで、答えは数百万円単位で動きます。

書いている私は、相場のロジックを100以上検証してきたシステムエンジニアです。年金や家計の専門家ではありません。この記事の数字は、金融庁と総務省の原文を開いて確かめたものと、前提を書いた自分の計算だけです。

先に1分チェック

  1. あなたの家は、老後に「夫婦2人・2人とも働いていない」形になりそうですか。2,000万円の計算は、この形の世帯の平均です
  2. いまの家計で、1か月の支出はおよそいくらですか。家賃やローンが老後も残るかどうかも、あわせて思い出してください
  3. 夫婦で受け取る年金の見込みを、一度でも見たことがありますか。ねんきん定期便などに書いてあります

1が「いいえ」の人は、2,000万円という数字は、そもそもあなたの家の計算ではありません。2と3が分かれば、下の表で自分に近い行を探せます。

報告書の原文:2,000万円は「月5万円強×30年」の単純計算

元になったのは、金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループが2019年6月3日にまとめた報告書「高齢社会における資産形成・管理」です。2,000万円が出てくる場所は、ほぼ2か所だけでした。

1つ目は16ページ。毎月の不足額約5万円が続く場合、「20年で約1,300万円、30年で約2,000万円」を取り崩す必要がある、と書かれています。2つ目は21ページで、同じ数字を「単純計算で1,300万円~2,000万円」と言い直し、すぐあとに「あくまで平均の不足額から導きだしたもの」「当然不足しない場合もありうる」と添えています。

「約5万円」の中身は、報告書の本文には書かれていません。図の出典として示された、同じ会議の厚生労働省の資料を開くと、そこに内訳がありました。

2017年・高齢夫婦無職世帯(月平均)金額
実収入(ほぼ年金などの社会保障給付)209,198円
うち社会保障給付191,880円
実支出(生活費+税・社会保険料)263,718円
差(毎月の赤字)54,520円

出典:金融審議会 市場ワーキング・グループ第21回(2019年4月12日)厚生労働省提出資料 p.24「高齢夫婦無職世帯の収入・支出」、出所は総務省「家計調査」(2017年)。夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯。差は筆者の引き算(資料では「月5.5万円程度」)。2026年9月30日確認

54,520円×12か月×30年で、1,962万7,200円。これが「約2,000万円」の正体です。20年なら1,308万4,800円で、報告書の「約1,300万円」と合います。

つまり前提は3つです。2017年という1年の平均であること。夫婦2人とも働いていないこと。そして、その赤字額が20〜30年変わらないこと。

質問1で読む:「その数字の出典は?」

このブログでは、お金の話に3つの質問を当てています。今回は1つ目の「その数字の出典は?」です。

出典をたどると、2,000万円は「老後に最低限いる額」として測った数字ではありませんでした。ある1年の、ある形の世帯の、平均の家計簿から出した引き算とかけ算です。平均なので、赤字がもっと大きい家も、黒字の家も混ざっています。報告書の17ページには、介護施設の費用や住宅リフォームのような「特別な支出」は入っていない、とも書かれています。

数字の出どころが分かると、読み方が変わります。「2,000万円いる」ではなく、「2017年の平均の家なら、何も変わらなければ30年で約2,000万円取り崩す計算」。長いですが、こちらが原文に近い言い方です。

最新の家計調査で計算し直す:2025年は月42,434円

総務省の家計調査は毎年出ています。2026年8月7日に公表された2025年の年報には、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の家計が載っていました。同じ引き算とかけ算をしてみます。

月平均2017年2025年
実収入209,198円254,395円
うち社会保障給付191,880円228,614円
生活費(消費支出)235,477円263,979円
税・社会保険料(非消費支出)28,240円32,850円
毎月の赤字54,520円42,434円
20年分約1,308万円約1,018万円
30年分約1,963万円約1,528万円

出典:2017年は上の厚生労働省資料、2025年は総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2025年 家計の概要」<参考4>(2026年9月30日確認)。どちらも平均値。20年分・30年分は赤字×12か月×年数で、筆者の計算

8年で、生活費は約2.9万円増えました。それでも赤字が縮んだのは、年金などの収入が約4.5万円増えたからです。30年分では、約435万円の差になりました。

ただし、年ごとにかなり揺れます。2025年だけを見て「もう1,500万円でいい」と読むのも、2,000万円をそのまま信じるのと同じ落とし穴です。

調査年毎月の赤字30年分
2022年22,270円約802万円
2023年37,917円約1,365万円
2024年34,058円約1,226万円
2025年42,434円約1,528万円

総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)家計の概要」各年版の<参考4>。2024年・2025年は資料の「差額分」、2022年・2023年は資料の「可処分所得−消費支出」を筆者が引き算。65歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均値。2026年9月30日確認

わずか4年で、30年分の答えが約800万円から約1,500万円まで動きました。倍近い開きです。

前提を変えると、必要額はこう動く

ここまでの計算は、どれも「毎月の赤字×12か月×年数」です。平均の家の代わりに自分の家の数字を入れると、答えは次のように変わります。

毎月の赤字20年25年30年
1万円240万円300万円360万円
3万円720万円900万円1,080万円
42,434円(2025年の平均)約1,018万円約1,273万円約1,528万円
54,520円(2017年の平均)約1,308万円約1,636万円約1,963万円

筆者の計算。赤字の額が期間中ずっと同じと置いた単純計算で、物価の上昇・年金額の改定・税や保険料の変化・取り崩す間の運用は入れていない

表を見ると、効き方の違いが分かります。赤字を月1万円変えると、30年で360万円動く。年数を5年変えると、赤字3万円の家で180万円動く。私なら、年数より先に毎月の赤字を確かめます。年数は自分で決められませんが、毎月の赤字は家計簿で測れるからです。

この計算が当てはまらない人

私ならこうする

私なら、2,000万円も1,528万円も、自分の目標にはしません。どちらも「よその平均の家」の数字だからです。

代わりに2つだけ書き出します。老後に毎月いくら使いそうか。夫婦の年金の見込みは毎月いくらか。この差が毎月の赤字で、上の表のどの行に近いかを見ます。赤字が出ない見込みなら、残るのは介護や修繕など「特別な支出」の備えだけです。医療費は、健康保険の高額療養費の上限を先に確かめておくと、見積もりが大きくぶれません。

金額の大きさに驚いたときほど、かけ算の中身を1つずつ開きます。2,000万円も、開けば「月54,520円×360か月」でした。

この記事でわからないこと

次にやることを1つ挙げるなら、ねんきん定期便で夫婦の年金の見込み額を確かめてください。「毎月の赤字」を計算する材料の片方が、それでそろいます。

「年金代わりに」と投資用マンションをすすめられたときの計算は表面利回りと実質利回りの違いに書きました。慌てて決めない。

赤字を埋める手段として非課税の積み立てを考えるなら、枠の仕組みは新NISAで売ったら枠はいつ戻るかに書きました。

あなたの家の老後の「毎月の赤字」は、2025年の平均の42,434円より大きそうですか、小さそうですか?

金融庁の報告書と総務省の家計調査をもとに、数字の前提を説明したものです(2026年9月30日確認)。特定の金融商品や投資をすすめるものでも、個別の家計や投資の助言でもありません。計算例は前提を置いたもので、実際に必要な額を示すものではありません。

よくある質問

老後2,000万円の根拠は何ですか

金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書(2019年6月3日)です。2017年の総務省の家計調査で、夫65歳以上・妻60歳以上の無職の夫婦世帯の毎月の赤字が平均約5.5万円(実収入209,198円、実支出263,718円)だったことから、30年分を単純計算して約2,000万円としています(2026年9月30日確認)。

最新の家計調査で計算するといくらですか

2025年の家計調査では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の毎月の赤字は平均42,434円でした。同じ単純計算で20年分は約1,018万円、30年分は約1,528万円です(筆者の計算)。年ごとの揺れが大きく、2022年の値で計算すると30年で約802万円でした。

老後2,000万円には介護費用も含まれていますか

含まれていません。報告書は、老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用などの特別な支出を含んでいないことに留意が必要だと書いています。平均の毎月の赤字から出した数字で、報告書自身も「当然不足しない場合もありうる」としています。